カプチョにて

隣には東京弁の男女がいる
年格好から見ると親子のようだがわからない
女の問いかけを男は一向に無視する
男はちゃん付けで呼ばれている
ねぇ、ねぇ、と視界を邪魔されても男はイヤホンをして下を向いている
食事が運ばれると男は食らいつくように猫背で食べ始め
少しずつだが話し出した
女は「おいしいでしょ」と言い
男は「ごはんがあるともっといい」と言う
女は律儀にメニューを調べだすが
女の提案を男は無下に断る
男の胸元をよく見ると白いシャツには字が書いてある
いい年だと思っていた男は学生のようだ
食べ終わるとまたイヤホンをし下を向いて両手の親指を動かす
二人は無言だ
ひたすらにそれぞれの指元を見つめている
この30分間
男の視界にはゲームとパスタしか映らなかった
始めは謎に思えた二人組だったが
自分は一人で生きていると勘違いをしている反抗期の高校生と
それを甘やかして育てている眼鏡の母親
受験のため上京の巻
といったところだ
会話がないグループは予測しにくい
そこの少年 君に1つ問題を出してあげよう
問.今この時間に大切にすべきものは一体何か?